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夜の山で大声を上げるのは禁忌だった。腹を空かせた夜蟲に餌の場所を教えるようなものだからだ。 香澄はその事に気付きハッとして口をつぐむが、遅かった。 すぐに木々の上から耳障りな羽音が聞こえてくる。 夜空を見上げると、木々の隙間からこちらに向かって飛んで来る羽蟲の群れが見えた。 一匹の大きさは小さな子供と同じくらいある。高速で羽ばたく薄い羽、木の枝のように細長い手足に、同じく細長い腹部は白と黒の縞模様になっている。そして口から伸びる鋭い槍のような管。 オオシマカムシ--夜に飛行し、動物や人間の血を吸うかなり危険な夜蟲だ。 素早く空を飛ぶため退治するのが難しく、また口である鋭い管の先には麻酔性の毒があり、刺されてしまうとその周囲が痺れてしまうため、最悪の場合は体を動かせぬまま全身の血を抜かれて死んでしまう。 普段は単体で行動し、眠っている動物や人の血を吸うのだが、今木々の上から飛んで来るオオシマカムシは十匹以上いる。 ここまで多い数を一度に相手するのは香澄も初めてだった。 しかし、こうなってしまったのは自分のせいだ。せめて少年だけでも逃がさなければ、サムライとしての面目が立たない。 「わたしが相手をするから、キミは逃げて」 香澄はそう言って刀に手を添える。 しかし少年はチャバネムシを停めることなく走らせ続けた。 「話せば大丈夫だ。あいつらはオレの友達だ」 「え?」 香澄は耳を疑った。夜蟲を友達なんてのたまう人間は初めてだった。  
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