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うっそうと生い茂る木々。空はすっかり茜色に染まり、辺りの森には夜の帳が下り始めている。 そんな山深い森の中の獣道を一人の少女が歩いていた。 少女の出で立ちはその場には似つかわしくなく、色鮮やかで艶やかな上質の着物に包まれた身体は華奢で、栗毛色の長い髪に、宝石を思わせる澄んだ紅い瞳をした顔は幼ささえ残っている。 しかし、その姿は凛としていて、端正な顔立ちにはどこか妖艶な大人の香りも漂わせていた。 そして腰には一目で上業物と分かる≪立派な刀≫が差してある。 --少女の名は香澄 (カスミ) 。京にある良家の一人娘で、サムライの父と陰陽師の母を持つ。 五年前、両親を亡くしたことを切っ掛けに剣の道へと進み、無謀ともいえる過酷な修行の末、遂に昨年、異例の若さでサムライとなった。 その後≪バクフ≫に仕えた香澄だったが、経験が浅い事を理由にまだ戦場には出させて貰えず、将軍の命で≪とある刀≫を探す任務に当たっているのだった。  
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