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山には多数の蟲が生息しており、特に夜行性で大型の蟲は≪夜蟲≫と呼ばれて人々に恐れられている。中には人を襲う種もいるからだ。 そのため普通は山で一人野宿するのは大変危険なのだが、サムライである香澄にとっては人を襲う夜蟲もそれほど驚異にはならない。 しかし香澄は蟲全般が大の苦手だった。見ているだけで寒気がしてくる。 将軍の命がなければ、こんな山奥になんて一人では入らないだろう。ましてや野宿なんてもってのほかだ。 本当は目当ての≪刀≫が無いのなら今すぐにでも山を下りたかったのだが、ふもとの村に戻るにはまた三日は掛かる。 どんなに嫌でも今夜は野宿するしかないのだ。 香澄は仕方なく、安全そうな場所を探して歩き始める。また蟲に囲まれて寝なければならないと思うと足取りは重かった。 その時、山道脇の茂みの奥でガサガサと物音がした。 --蟲!? 暗くて見えないが、音の大きさからして大きな何かが近付いて来ているのは確かだった。 香澄は息を殺し、物音を立てないようにそろりそろりと後退する。夜蟲が襲ってきたら斬らなければならないが、できれば遭遇したくなかった。 しかしその願いも虚しく、物音は香澄に向かって真っ直ぐ向かってくる。 どうやら香澄の存在も向こうにばれているようだ。香澄は意を決し刀を抜く。 「来るなら来なさいよ!」  
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