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「大丈夫か?」 少年がガサガサと茂み掻き分け山道に出てくる。 しかし香澄は、その少年が乗っている≪モノ≫を目にして絶句した。 油の浮いた艶やかな茶褐色の身体に、光沢のある薄い四枚の羽、トゲのような硬い毛の生えた六本の足で地べたをカサカサと歩いてくる。 それは大人二人分くらいはある巨大な夜蟲だった。 チャバネムシ――全国に広く分布しており小型のものは山や森だけではなく街中にも出没するため最も知名度の高い蟲だ。 主な食料は朽木や獣の屍骸などの雑食性で、人間を襲うことはまず無いのだが、不気味な見た目にも関わらず人を発見すると羽を広げてバタバタと飛んでくる性質があるため多くの人に嫌われていた。 そして香澄も例外なく一番苦手な蟲がこのチャバネムシだった。しかも、目の前にいる個体は今まで見た中でも断トツでかい。 少年はその巨大なチャバネムシの首にまたがり、身体に比べて極端に小さな頭に生えている二本の長い触角――獲物を探しているのだろうか、左右にうねうねと揺れ動いている――をまるで手綱のように握って器用に操っていたのだ。  
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