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「じゃ、今日はナンパとかどうですか!?総長達も女の子たち捕まえてどっか行っちゃいましたし」
「死ぬほど興味ない」
「死ぬほどですか!?」
「……初対面の人間とか無理。関わんのも苦手」
そっけない返しに一年はあんぐりと口を開けていた。
そんなにナンパがしたかったのか?
「や、もっとテンション上げましょうよ!?ほらほら、あの女の子とか可愛いですよ?」
「うるせぇな…」
俺は高木総長や周りの連中のように美形でも男前でもない、普通の顔なんだよ。
「あのねー唯さん…その金髪でコミュ症とかギャップありすぎでしょう!?」
コミュ症?ギャップ?
さっきの海苔発言といい、さっきから何を言いたいのかが分からない。
第一、この金髪は俺みたいな冴えない平凡が不良チームにいると変に絡まれるだけだから、先輩からのアドバイスで染めただけだ。
とくにセットもしていないスタイルでも人間、奇抜な見た目をしてるヤツにはあえて関わろうとは思わないらしい。十分効果はあった。
一部の物好きを除いては…。
「あっちにいる子、お前のことチラチラ見てるぞ」
「うぇ、嘘!?」
「嘘」
「………」
騙しましたね?とか恨めしげに睨んでくんなっ
「……お前から声かけたら可能性はあんだろ。俺はどっか行くから、お前も好きにしろよ」
背はなくとも細身で愛嬌のある顔立ちだ。
声をかけられた相手は満更でもないんじゃないか?
一応フォローしてやったつもりだった。
「そんな寂しいこと言います!?」
「お前…」
なんで励ましてんのに顔膨らませんだよ、ほんっと面倒くさいなぁ。
「まーあー??唯さんは女の子と話するより喧嘩の方がいいんですもんねー?殴り合いになると手加減も容赦もしないから、いっつも怪我もするしぃ?いい加減に止める俺の身にもなってくれませんかね!?ぶっちゃけ今だって俺が目を離したらどこで何するかも分かりませんし!」
くどくどと説教なんてかましてくるが、俺はお前に止めてくれなんて頼んだことは一度もない。
「巻き添い喰らって相手に殴られたの、お前の方じゃん」
「うっ…。そうです…けど…」
一週間ほど前。コイツは無謀にも俺の喧嘩を止めに入ってきた際、相手から一発食らっている。
喧嘩慣れしてない後輩からしてみると、相当痛かったと思うのだが…
ちらっと頭の方に目をやるとその視線を察したように「平気ですよ」とニカッとした笑顔を向けてくる。
「石頭なのは自慢なんです!」
「あぁ…そ…」
「唯さんって、なんで不良チームに入ってるんです?団体行動とか苦手じゃないですか」
いや。不良の不の字もないようなお前にだけは言われたくない。
「ねー、どうなんですか?」
「俺は…」
言いかけてやめた。
だって、痛いのが気持ちいいから。という理由しかない。
そんなドMで変態じみたことを馬鹿正直に言えるか。
「お前に言うわけないだろ」
「意地悪っすね!?」
あぁ言えばこういう…。
さっきからコイツといると気が狂う。俺は呑気にお喋りをしたいわけじゃない。
「いいから、今日はもう帰れ」
「ちょ、まっ…・嫌ですってば!」
今日は唯さんと一緒にいる!とかウザったく喚く後輩を駅まで引きずるように連れて行く途中―――。
あぁ、そうだ。
つまらなかったんなら、もっと早く帰るべきだった。
だから、余計なモノを見てしまった……。
たまたま目に入った、一瞬の光景。
「…………」
すぐ人込みに消えてしまったが、その人物には確かに見覚えがあった。
「唯さん、どうしたんすか?向こうになんかありましたか?」
「………腹が減った」
「はぁ?また、えらい唐突っすね?」
「…………そこのラーメン屋、寄ってくから、お前は」
「マジっですか!?んじゃ、俺も行きますっ!」
この時ばかりは、冷静でいたい頭と・あの影を追いかけたい葛藤しかなくて…
後ろから慌てたように追いかけてくる後輩の声がやけに遠かった
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