(小話)side:新野②

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(小話)side:新野②

新野+悪友 … 授業が終わりスマホをのぞくと、1件のメッセージが届いていた。 『今日の19時半。場所はhttps://――――』 失笑しながらURLを開くと個室居酒屋のサイトに飛んだ。 どうやら話がてら一杯付き合えということらしい。 (確かに頼みごとがあるって連絡したけど、また唐突だなぁ…) 連絡してから3日後の今日。ようやく返事が来たと思えばこれだ。 ガクッと肩を落としてしまう。 (唯くん、本当ごめん……) 今日は彼が夕飯を作りに来る予定だった。 「食事の予定が入った。ゴメン」なんてメールすれば、妙な勘違いをして数日は来なくなりそうだ…。 それを容易に想像できても、この多忙な友人に『別の日にしてくれ』と返せば、今度は1ヶ月くらい既読スルーされてしまう。 長い付き合いだからこそ分かってしまうのだ。 (万が一、変なことになったら恨んでやる) お互いに社会人。なぜ日時を合わせるということをしないのかと、友人に若干の苛立ちを覚えた。 *  *  *  * 「おや。やっと来ましたね」 店員に案内された個室に入ると、高校時代からの友人佐伯 尊(さえき たける)が待っていた。 「これでも急いできたんだけどなぁ」 約束の5分前だというのに既にテーブルには刺身や揚げ物といった料理が並んでいる。 コースだった?と聞けば、先に食べたいものを頼みました。との返答。 「はビールでよかったですよね。さっき注文したので、もう来るかと思います」 「はは。尊は相変わらずだね…」 芦屋と同じく腐れ縁の一人。 中性的な顔立ちで新野より一回りは細い体型をしているが、しっかりとビジネススーツを着こなしている。 同い年だというのに相変わらず敬語を使ってくるが、それよりも…。 「で、その頭は何?」 真っ先に目につくのは、スキンヘッド。 さらに右側頭部には黒い烏の入れ墨を掘っている。 「あぁ、これいいでしょう?中々痛かったですが、イイ感じにしてもらえて大満足です」 本人はただのファッションだと言い張っているが、見る人が見ればそっち系の職業にしか見えない。 ―――トントンッ 「し、失礼します!生ビール二つ、お待たせしました!」 元気な声で注文のジョッキを持ってきた若い店員だが気の毒に その笑顔はどこか引きつっていた。 … 「さて、にーにが私に頼み事をするなんて、よっぽどの事情があると思うんですが?」 乾杯をし30分ほど飲み食いをしたところで、見計らったように佐伯が本題へと話題を切り替えた。 「もうその話をする?」 「今日の貴方は、なので」 久しぶりなんだから、もう少し楽しい話をしない? 笑って見せたが、佐伯としては依頼ごとの方が優先らしい。 食事をやめるように箸とジョッキを置き、こっちを見据えている。 「……機嫌、悪いね」 「あたりまえですよ」 さっき新野を客だと言ったくせに、佐伯は平気で舌打ちをして煙草に火を点ける。 その仕草はどこか荒々しく、あまり気を遣う余裕はないらしい。 (芦屋がいれば、もう少しマシだったんだろうけど…) 昔から、芦屋は場の空気を読んでうまくまとめるのがうまい。佐伯の機嫌を直すのにも適任だと分かっていても、話を聞かれるわけにはいかない。 「ほら。今度、芦屋んとこ連れてくから」 「…………」 「……はいはい。今日、だね」 「いいでしょう」 微笑ではあるものの、やっと笑顔を見せてくれたことには安堵しかない。 (ほんと、ガキみたいなんだから…) 佐伯は昔から気に食わないことがあれば、自分勝手な行動をする。 今日になって時間と場所を指定してきたのも料理を注文していたのがまさにそれだ。
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