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「おーい、八木君!!いま、掃除の時間だってば」
勇気を出して起こしてみるが、寝入っている彼は中々起きない。
じーっと恨めし気に顔をのぞくと、少し日に当たった人工的な黒髪はその下にある金色が浮くのか、微かにもキラキラ光って見える。
「……」
いつも怪我ばかりに目がいくせいで、まじまじと顔をみたことはなかった。
長い睫毛に、色白。
いつもクール…というより無表情な彼がすやすやと穏やかに眠る表情は、ただ無防備だ。
いくら細身でも、僕より背は高い。
顔も男だとはっきりわかる。のに……、
(まて俺!!不良に綺麗?とか可愛いとか正気じゃない!)
「……ん・?」
「あ」
無意識のうちに近づきすぎていた僕は、ぱちっと目覚めた八木君としっかり目が合ってしまった。
「ごごごごごごごめんなさいっ!!!!」
ずざざざざざざと尻もちをついたままの状態で後ろに逃げていく僕。
どれだけ情けなくとも、殴られるくらいならこのまま土下座する勢いだ
「…なんだ、委員長じゃん」
「………はい?」
「なにしてんの?」
寝起きでちゃんと頭が働いていないのか、少しぼーっとした表情に見える。
「い…いまは、掃除の時間なんだけど」
「………?」
「だから、教室の掃除を、ですね…?」
ハッ!まさかコイツ『なんで掃除とか真面目にやってるんだ?』そんなこと思ってるのか!?
そもそも同じ教室と校舎を使ってるくせにお前はやらない・僕らはやらなきゃならない。そんな格差みたいなのがうまれるんですかねっ!?
お前だって教室のゴミ箱くらい使うだろうが
と、別に何かを言われたわけでもないのにイラっとしてしまった。
「…………悪かった」
「はい?」
「今日は何もしてなかったから」
「……は?」
「そのゴミ箱。焼却炉に持ってくんだろ、せめてそれくらいやる」
まさかの反応になにもいえず、隣に置いていたゴミ箱を持っていかれてしまった。
* * * *
その後、教室にゴミ箱を持ってきた八木にクラスの誰もが驚いていた。
「……な、なぁ八木君…」
「なに?」
席に座った彼に話しかけると、他の生徒からざわっと動揺が走ったのを感じた。
「なんで、いままで掃除しなかったのに突然…」
改心するきっかけがあったなら、それに越したことはない。
だけど僕はこの時、彼に謝ってほしかったんだと思う。
いままで、クラスメイトに迷惑をかけてすみませんでした。と
けど唯の口から出たのは意外な返答だった。
「ここは人足りてんだろ?」
「……うん?」
だから自分が必要ないというなら、それは自分勝手で―――。
「だから、用務員のじぃちゃん手伝ってた」
「はい???」
その言葉には、教室にいた全員が「???」だった
お前いまなんつった?と
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