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「あの…」
「すまんすまん、こうして会うのは初めてだったな?俺は芦屋 貴文。俊哉とは友人だ」
芦屋と名乗ったは顔色一つ変えず、人当たりのよさそうな笑顔を浮かべていた。
けど俺はこんな時間に先生の友人が来るなんて聞いちゃいない。
「んなに緊張すんなって」
緊張なんかしていない。
むしろ、知らないアンタを警戒してるだけだ
って、あれ?
「芦屋さんって…」
「そうそう、ここの大家な。こ~んな若くていい男が、なんて驚きだろ?」
ドヤ顔をきめつつ友人だの大家だのと実に怪しい。
「新野せ…さんなら留守です」
「留守ぅ?こんな時間に?」
それはこっちの台詞だ。
「今日は飲み会なので、まだしばらく帰ってこないと思います」
嘘は言っていないし、普通なら出直す流れだ。
が、男はそんな素振りを見せない。
「あー…そういや、んなことも言ってたっけかなぁ」
「はい。なので用事があるなら―」
「君が噂の八木君だよな?」
「!」
「驚く事じゃねぇだろ?同居人が増えるときには俺の許可がいるからな。ま、立ち話もなんだから上げてくれないか?わざわざ俊哉が飲みたがっていた酒を差し入れに来たんだぜ?」
「でも…」
「不安なら連絡すりゃいいだろ?」
芦屋さんは先生の友人らしい。かなり胡散臭いが。
けれど居候の俺が、友人は置いておくとしても大家をあまり無下に扱ってしまうと心象を悪くするかもしれない。
チラッと男を一瞥すると酒瓶が2本入っている紙袋しか持ってないようだ。
(癪だけど、先生にはメール送っとけばいいかな…)
「…どうぞ」
「どーも」
勝手に中に入れていいのか悩んだが、結局断り切れなかった。
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