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「おー。新野が綺麗にしてる……わけないから、八木君のおかげか」
感心だとか言いながら芦屋さんは、さっきまで俺がいたソファーに腰を下ろす。
溜息が出そうになるのをこらえて、手渡されたワインを冷蔵に入れた。
「あの、お茶でも…」
「おかまいなく。でも出来るならビールがいいな」
「……」
なんとも図々しい人だな。
「お、この芸人のコント面白いよなぁ。八木君も突っ立ってないで一緒にTVでも観ようぜ?」
「いいえ、結構です」
ビールを渡す俺の顔を見て、芦屋さんは苦笑していた。
「なんか敵意むき出しって感じだな?ちゃんと前もって家にくる連絡はしといたんだが」
「…本当ですか?」
「あぁ。残念なのは送別会があるってのを俺が忘れてただけだ」
それは約束じゃないし、断られといて来るとか迷惑行為なのでは?
呆れる俺をよそに芦屋さんはカシュッとビールを開けると美味そうに飲んでいる。
「はぁー…俊哉とは高校からの腐れ縁だ。あ、信じてねぇな?」
いつまでも疑いの目を向け続ける俺に気付いてか、勝手にツッコミを入れてくる。
「こんな嘘ついてどうすんだよ。俺は俊哉ん家に飲みに来た、それだけだ」
理由はよくわからないが、ヘラヘラした芦屋の態度が気に障る。
隣に座るなんてごめんだ。ソファーではなく食事をとるための椅子を引いて腰かけた。
「一方的にそう思ってるだけじゃないんですか?」
「お、中々毒舌だな?黙ってりゃ大人しく見えるのに」
変哲もない普通の顔立ち。髪を黒に戻した今、初対面の人からしてみるとそう見えるのだろう。
けど、生憎と振る舞う愛想は持ち合わせちゃいない。
「ほっといてください」
「アイツにも、そんな態度なのか?」
「関係ありません」
「ふーん?俊哉って、もっと素直そうなのがタイプだった気がするんだけどなぁ?」
知るかよそんなこと。
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