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「芦屋!」
大きな足音を立てながらリビングに入ってきたのは他でもない先生だった。
「おー、おかえり。やっと帰ってきたか」
「こんな時間に人ん家にあがりこんで、何を考えてるんだ?それに…!」
先生は近寄った俺が声をかける前に、そのままの剣幕でぐわっと両肩を掴んできた。
突然のことに驚いて目を大きく開く。
「え、ちょっ!?」
「唯君、大丈夫?あの変態になにもされてない!?」
か、顔っ、顔が近いっ!
ついさっきまで居酒屋に居たのだろう。服からほんのり酒と煙草の臭いがする。
「おまっ…いきなし人を変態呼ばわりとは、いい度胸じゃねぇか」
「うるさい。だいたい今日の飲みは断ったはずだろ?」
「だってしょうがないだろ?」なんて呑気な声を出しながら、冷蔵庫を開けワインを取り出す芦屋さん。
その様子を先生も顔で追っていた。
「俺はお前と飲みたい気分だったし、俊哉も今まで飲んでたんだろ?てなわけで、俺と楽しい2次会?いや、3次会~♪」
「お前…」
その自由過ぎる友人を見た新野は盛大な溜息を吐いて不機嫌そうな声を隠さない。
「いい加減、うざいぞ」
低い声にひやっと背筋が凍る。
やっぱり勝手に上げない方が良かったんだろうか…
俺が怒られたワケじゃないのに怒気に緊張していると、ぽんっと軽く芦屋さんに背中を叩かれた。
「ほら、八木君も一緒にどうだ?」
こんなに冷たくあしらわれているのに芦屋さんは何故か楽しそうだ。
「唯君は未成年だ。ごめん、コイツ馬鹿だから…」
「いや…別に」
「おーい。俺のこと馬鹿馬鹿言わないでくれないか?」
先生はふんと鼻の先であしらったが、傍からみれば仲のいい雰囲気だ。
――――俺はこの感覚を、知っている。
じっと二人のやり取りを眺めていると、ニヤッと不敵な笑みを見せる芦屋と目が合った。
「…っ、俺は寝るから。先生たちも早く寝ろよ?おやすみ」
「あ、うん。おやすみ」
先生は何か言いたげな様子だったが『寝る』と言う俺を引き止めることは出来なかったのだろう。
一応、芦屋さんにも軽く頭を下げてから部屋へと戻った。
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