2章前:(あなたといる)

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―――パタンッ 今の住処である白い壁の一室。 畳でもなければ、煙草のせいで黄ばんで薄汚れた壁紙もない。障子じゃないし内鍵だってある。 けど、まだ洋式の部屋に馴染めないでいた。 (…おやすみ、か) 自前の敷布団に寝転んでみても、やはり眠気は来ない。 それどころか扉の向こうからボソボソ聞こえる会話が気になる。 内容までは聞こえないけど…時折、笑い声も混じっている。 楽しそう、だな…。 改めて分かったことだが、教師とは多忙過ぎる。 休日も学生の指導や補習があれば半日以上は仕事。 家にいても大半は仕事をしている。 (そりゃ2万払ってでも、家事を手伝って貰いたいよな…) 夕食がコンビニ飯だったという理由にも頷けるし、俺の冗談話を本気にしたのも理解できる。 「………」 今の俺は居候なんだから家事をするのは当たり前。 これでは恩に報いるには全然足りない、むしろ俺は金食い虫(厄介者)。 必要なのは金。家賃を約5万と考えて食費と電気代、それから…と計算するとバイトを掛け持ちした方が良さそうだ。 (でも借金じゃない分、かなり気楽な方だろ) 住む家もなく苦労している人間からしてみると、俺ははるかに恵まれた。 どんなに反対されてもバイトはやっておくべきだったと後悔したところで金はない。 出来ることも少ない。 余裕もない。 無いものだらけじゃないか。完全に自己嫌悪に陥り、ずぶずぶと暗い沼に浸かってしまう。 (稼げるようになるまでは、せめて先生の知り合いには愛想しなきゃ) まぁそれができないどころか友人(芦屋)に嫉妬してしまい、悶々と悩むハメになったんだが…。 「……っ、だって…待ってたのに…」 『おかえり』を一番最初に言えなかったのが悔しい。 芦屋さんに、先生をとられたくないんだ だって、俺は… ここにいられなくなったら、次はどこに逃げればいい?
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