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新野side①
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「で、どうなんだ?同棲の感想は」
ワインを嗜みつつ、だらしなくソファーに座り他愛もない話で盛り上がっている最中、芦屋がからかい半分の質問をしてきた。
「何かあったら捕まるよ、俺は」
「あ?マジで、なんもやってないのか?」
「……あってたまるか」
予想を裏切らない返事だろうに、芦屋の顔には“面白くねぇ”と書いてある。
「そうなると欲求不満だよなぁ、どうだ?お前狙いの美人が最近来てて…」
「……」
「あーあー。お姉さん可哀想に」
「そうやって慰めて、お前が喰うんだな?」
「バーカ。仕事できなくなんだろ」
友人の店で出会いを求めるほど飢えちゃいないし、芦屋だって自分の店で客を口説くなんて真似はしない。
「俊哉も笑えるくらい丸くなったもんだ」
「年とって落ち着きがでてきたのかな?」
「ハッ、冗談はよせ。それよりお前、……アイツを、どうする気だ?」
これからが芦屋にとっての本題。
人当たりがいい反面、小狡い男だ。わざとこんな時間にたずねてきたのは、酔った新野が口を滑らすのを期待しての事であった。
「気づいてんだろ?血縁者でもない他人を保護してやるなんて、踏み込むどころか、異常だぞ」
―――八木 唯を母親の元から保護したので預かる。
新野から連絡を受けた時、正気を疑った。
「八木唯、だっけか?まさか親に虐待でもされてたのか?」
「……そのまさか、だ」
暗い肯定に芦屋がピタリと動きを止めた。
理由はどうあれ唯は日常的に虐待を行われ、一刻も早い大人の助けと保護が必要だった。
「父親は行方不明で、母親の八木千歳と実家は絶縁状態。他に行く場所もなかったからね」
「……は?おいおい、意味わかんねぇよ。だからって俊哉が面倒みなくても施設か相談所也に任せりゃいいだろ」
ここ数週間Barに顔を見せないと思っていたが、一体何があった?と、芦屋は激しく狼狽していた。
詳細をはぐらかすつもりはないが、今はまだ話せない。
「勿論、必要な手続きは済ませてあるし、ここにいるのも唯君の意思だ。それと――、」
ふとグラスに映る自分が嫌な顔をしているのが目に映った。
「あとは全部、俺の我儘かな」
貶してくれてもいい。
ただ、またあんな事をされるなら目の付く所に置いておく方が何倍もマシだと判断した。
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