2章前:(あなたといる)

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新野side② _______________________ 「おま、我儘って……俺はそれを残酷だと思うぞ」 「もし、ここが嫌になるようなことがあれば、他の居場所を探すさ。けど、あの母親だけは駄目だ」 「………」 穏やかに聞こえても湧き上がる怒りから震える声。 芦屋からして見てもこの友人が、お節介や生半可な覚悟ではなく、全力で八木唯の力になろうとしているのは伝わったが、だからこそ隠しているのであろう"事情"に眉を顰める。 「芦屋には、もっと納得のいく説明をするつもりだったんだけど…まだ中途半端だから」 「ったく。お前は、なんで負わなくていい責任を背負うかねぇ…」 険しく難しい表情をしたまま考え込んでいる新野に、ふーっと少し長めの溜息を吐く。 「まぁいいわ。落ち着いたら話してくれや」 「……正直、お前が乗り込んでくるのが意外だった。ほんとは俺がいないと分かって来ただろ?」 「ありゃバレてたか」 厄介ごとは面倒だが新野の頼みだからこそ、同居を許可した。 が、八木唯という少年は芦屋にとっては他人。 大事な生徒だろうが仮の恋人だろうが関係ない。一度は立場の弱い教師を脅した人間だ。 「で、判定のほどは?」 「もうちっと愛想のあるガキが好きだ、俺は」 きっぱりと言うと、そのままの勢いで芦屋はグラスのワインを飲み干す。 実際、芦屋から見た唯の第一印象は、人間不信の野良猫のようだった。 居場所を奪われたくない。 新野を芦屋とられたくない。 愛想のない態度から、嫉妬と不安の色が見えた。 それを知ってか知らずか、「そこも可愛いだろ?」と満更でもなさそうな新野のデレには失笑しかない。 「よ―――――く見ると可愛い顔してるし、仮にも恋人同士つったな?たまーに、ムラッと来ないわけ?」 「……だから、寝室わけたんだってば」 「………あ、そ」 (結構むっつりなんだよな) こんなことを言えばグラスが飛んできそうで洒落にならん。と思いとどまった。
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