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* * * *
部屋に戻ってしばらく経つ。
眠ろうと何度も意識を沈めようとしたが、無理だ。
眠れるわけがない。
嫌なこと一つ考えてしまうと芋づる式にアレもコレもと溢れてくる。
いっそ、考えることを放棄できれば楽になれるのに…。
【結局それができなくて、中途半端になったんだよな】
【周りや先生に迷惑かけるだけ掛けて、俺は何がしたいんだ?】
頭の中で俺が俺に語りかけてくる。
「―――うる、さいっ!」
切り替えようと起き上がり、その幻聴を無理やり振り払った。
こうすれば、無駄なことを考えずに済むから…。
ー?
これは…足音?
部屋の前を通り過ぎ、玄関へ向かう音が聞こえた。
芦屋さん、今から帰るのか…。
追うように部屋のドアノブに手をかける。
――ガチャ
「お、まだ起きてたのか?」
扉の音に気付いて振り返った芦屋さんは、来た時同様の明るい笑顔を浮かべた。
「あんたも、笑うんだな…」
なにが面白くて笑えるのか…。
俺が嫌いな癖に。
「まぁ…なんつか、そんな辛気臭いツラより断然いいだろ?」
あとBarのマスターが不愛想でどうするってんだ。とケラケラしてるが、客でもなんでもない俺にそうする必要はないだろ。
「八木君も笑ってみろよ。そしたら、ちょっとは嫌な気分も晴れるさ」
「晴らしてどうするんだよ…」
ただの疑問だった。
笑っただけで過去になるものじゃない。
「笑わなくたって支障はないだろ」
俯く俺に「んー」っと悩みながら芦屋さんが近づいてきた。
思わず警戒して1歩下がる。
「そこまで思うんなら、俊哉に聞いてみろよ」
「先生に?」
「そうだ。八木唯ってヤツが笑うことに意味があるのかって。まぁ、ちと怒るかもしれねぇけど」
「はぁ…?」
何故、先生が怒るのか。
理解できない。
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