死亡、そして転生

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部屋の中では双子の赤ん坊がメイドの腕の中で泣いている。そんな赤ん坊たちを愛おしげに眺めている女性が一人。そして複数のメイドたち。 そこへこの貴族の屋敷の当主、ウルフ・シルフィードが駆け込んできた。ウルフは女性と赤ん坊たちを見つけ、即座に近づこうとしたがメイドの一人が立ちはだかる。 「俺たちの娘たちは無事か!?」 「落ち着いてください。お二方とも今のところは何も問題ありません」 「今のところだと!? この子たちは将来この家、いや国を背負うかもしれないのだ! にも関わらず今のところなどと曖昧で中途半端で不明瞭なことを――」 その先は続かなかった。立ちはだかるメイドの高速かつ重く強烈な鉄拳がドスッ! という音と共にウルフに叩き込まれたがために。 「ウルフ様、落ち着いてくださいと申し上げたはずです。未来のことを予測することは出来ませんので断言は難しい、というだけのことです。 それに加えてウルフ様のような物をお生まれになったお二方に易々と近づけさせるわけには参りません。ただでさえ常日頃から頭の悪そうな行動と言動ばかりか、僅かに残っていたネジさえも弾け飛んだ今のウルフ様などもってのほかです。死ねよ・・・・・・おっと、口が滑って本音が出てしまいました」 「お、前・・・・・・! これでも俺はお前の、ご主人様だからな?」 長い長い暴言を全て無表情で言ったメイドと、先ほどの攻撃で床に崩れ落ちたウルフの精一杯絞り出したような声。 「ウルフ様がこのような接し方で構わないとおっしゃったのですよ。もうお忘れですか、この年にして始まりましたね。そんなどうでもよいことはさておき、お二方の名前をつけてくださいませ。全く進まないじゃないですか」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「あなた? その惨めで無様な状態で良いので、早くこの子たちに名前を・・・・・・」 そう言ったのは倒れているウルフの妻にして双子の赤ん坊を産んだ女性。 「もういい、どうせ俺はいつもこんな扱いなんだ。 先に生まれた、つまり姉をユリシア、妹はレイナ。これでいいだろ・・・・・・」 ベオグランド王国の七大貴族である風の貴族、シルフィード家に新たな命が二つ生まれた。 それは五月晴れの空に、柔らかな風の吹く穏やかな日のことだった。
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