幼女時代

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果物を自分で切るなどやったことはないでしょう。いつもは男らしく丸かじりをしそうな女性なのに、私のために試行錯誤をして怪我を繰り返しながらも皮を剥いて切り分けてくれたのでしょう。 私のために? と聞けば『何故私がお前のために行動しなければならない? そんな下らないことを聞く前にさっさと食べてしまえ』と、私の方を見ずに返してきました。 冷たい内容の返答でしたが、心は温かく感じたことを覚えています。 そして梨を一切れ、口の中に入れた時です。 ――世界が変わりました。 程好い歯ごたえと甘味を伴った溢れんばかりの果汁が心の臓から髪の毛の先にまで広がるような感覚。何度も、何度咀嚼し飲み込む。この世の食べ物とは思えませんでした。飲み込んだ後もその衝撃の余韻に浸り、至高の波が私を包み込みます。 結論、梨は最高です。 回想終了。 日本でも梨をこよなく愛し食べ続けた私。しかしこの世界において梨は全く浸透していなかったのです。世界中、どの地域でもそれらしい情報はありませんでした。 広まっていないなら、知られていないなら私が栽培して広めてしまえば良いのです。 この究極の水菓子を知らない世界なんて、私が許さない。 そして始めた梨農園。 なぜか山に自生していたので、その山を私の土地となるように様々な交渉を行い、王国から許可を得ました。 現在も栽培面積の拡大と土地改良や、周辺の整備を進めているところです。主な資金提供者はシルフィード家ですが、必ず返済するつもりです。 そして、ようやく少量ですが出荷が出来るようになったのが最近です。今回の報告書はそのことについて。 「ではこの作戦終了後に商談を行います。フーリン、現物の用意をしておいてください」 「畏まりました」 ここまで話し終えたとき、ちょうど正門に着きました。
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