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師匠は私に話しかけて来ました。
「お前はこんな所で何をしているのだ?」
その日は雨が降っていました。私は膝を抱えて屋根のない公園の一角で座っていました。そこへ女の人の声が私にかけられたのです。
しかし声の主を見ることはしようとしませんでした。私に話しかけた人間はこの人だけではありませんでした。だから俯いたままに、返答をしました。
「ホームレス」
そう言うと、何か納得したように言葉を発しました。
「そうか、お前がか・・・・・・」
後から聞いた話によると、大分問題になっていたようでした。身寄りのないらしい子供がいると。
「何か用?」
この時は今のような口調ではありませんでした、師匠から無理矢理この口調にさせられたので。
話が逸れました。
「楽しいか? ホームレスというものは」
「楽しいと思うの?」
「それがわからない、だから貴様に聞いているのだろうが。さっさと質問に答えろ餓鬼」
そこで初めて女の人の顔を見ました。こんな風に扱われたのは初めてでしたので。
その人は凛々しかった。長い黒髪をポニーテールにして、つり上がった目で私を見下ろしていました。凄く綺麗な人だなぁ、そんな感想を抱きました。服装はスーツでした、男物の。
なんか色々と見とれていました。良い意味でも、悪い意味でも。
「二度も言わせるな、楽しいかと聞いているんだ」
「えっと、楽しくはないけど」
この時はいつもの調子が出ませんでした。凄まじく混乱していたので。
「ならば何故ホームレスなんぞをしている。まともな生活をすることなんて簡単だろう? 貴様は保護されるべき子供なのだから」
「・・・・・・関係ない」
「目をそらすな」
「私の自由」
「残念ながら私は大人だ。貴様が何と言おうが貴様を然るべき場へ連れていかなければならない」
本当に面倒だがな、そう続けた。
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