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つまり――
恩返しがしたかったなぁ、そう思います。
そんな面倒なことをする必要はない、そう師匠なら言うのが安易に予想出来るのですが。
一生懸命働いて、お金を稼いで、精一杯恩返しをしよう。そう思っていたのに。
不器用で素直じゃなくて、でも運動会などの行事には文句を言いながら参加してくれた、まさにツンデレな師匠。
なんでもっと話をしておけなかったのかなぁ。
なんでもっと笑い合っておけなかったんだろう。
なんでもっと――
一緒に生きていられなかったんだろう。
そう思うと、涙が止まりません。
歌声が嗚咽混じりになります。
後悔だけが押し寄せてきます。まるで津波のように、号泣することに対する羞恥心などは有無を言わさずに押し流していきます。
歌い終わったとき、私は膝から崩れ落ちました。
「なんで、なんで・・・・・・!」
問いかけ続けました。
何もない、真っ白な空間に向かって。何度も、何度も問いかけ続けました。
◇
涙も涸れ果て、ようやく気分が落ち着いたころ、例のゴミ虫がどこからともなく現れました。
途中から一人にしていただいたみたいですね。
「ようやく落ち着いたみたいだね」
「ええ、お陰様で」
「まさか歌うとはね、声をかけ辛かったよ」
「そうでしょうね、自覚しています」
淡々と言葉を返しておきます、一体何の用でしょうか?
「話が進まないから僕が勝手に進めるよ。まず、君は神である僕のミスで死んだ」
では私は貴方みたいなのに殺されたと、笑えない冗談ですね。
「その通り、中々察しがいいね。話がスムーズに進んで助かるよ」
「そうですか、私は大分嫌悪感を抱きますね。人の心を読まないでください。プライバシーは公共の福祉です、悪いことです」
「それは人間の基準であり、神たる僕にはまるで関係ないよ」
「それは神様の基準であり、人たる私にはまるで関係ないですよ」
恐らく私は今、とてつもなく冷たい目をしているでしょう。
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