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「そう言えば、所長はどんな研究をしているんですか? 個人的に何かやってらっしゃるんですよね?」
水居はコーヒーの薫りを胸いっぱいに吸い込むと、その息と共に、質問を吐き出した。チームでの研究とは別に、光姫が何かの研究をしている事は知っていた。しかし光姫は誰にも内容を漏らさず、一人で研究を進めていたのだ。
職員一同は、光姫がその内容を教えてくれるのをずっと待っていた。それが報われる事は無かったが、水居は隣の部屋の、モルモットとして飼われている動物が、最近減っている事に気付いた。その事に水居が出した結論は、光姫の研究が最終段階に入っているのではないかというものだった。
そこでそろそろ、内容を聞けるのではという期待と、他の職員に先んじて内容を知りたいという欲求、何よりも光姫に憧れを抱いている水居は、少しでも彼に近付きたいという思いから、いつもはまだ惰眠を貪っているようなこんな早朝にやって来たのだ。
「ありがとう」
光姫は水居の背後から、湯気の立つカップに手を伸ばすと、熱く、泥のように濃い液体に口を付ける。
水居は何か違和感を感じたのか、首筋を一瞬撫でたが、すぐ何事も何かったかのようにカップを持ち、光姫に身体を向けた。そこに、自分を観察するかのような光姫の視線を認め、居心地悪そうに近くの椅子を引き寄せて腰を下ろす。
「水居君なら大丈夫かな」
光姫は近くの机に寄り掛かり、水居を尚も観察しながら、そう言葉を溢した。
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