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00 「懐かしい友」
世界はいつでもそうだ。何かという定かではない目的のために破壊を繰り返す。
破壊という手段では悲しみや憎しみ以外何も生み出さないことを知らないのではないだろうか。
俺はそれを自らの経験から会得している。
あまりいい経験とはいえないのだが。
そんなことを語っておきながらも俺は戦場に立っている。
俺は戦うことくらいしかできないから。
「……意味などない。人はなぜ争うことしかできないのか?」
「それが唯一自分という存在を明確にすることの出来る行為だからなのだと私は思いますが……元帥」
俺の隣に立つ無表情極まりない少女がそう言った。
「何か失礼なことを考えてませんか?元帥……。別に何でもいいのですが……。それに、あなたほどの人がその台詞……。失礼承知で申し上げますが似合いません」
僅かに間を空け、彼女はこう言葉を紡いだ。
「『機巧の死神』もしくは『黒き英雄』とまで謳われた貴方には相応しくない。戦場に立つ貴方は躊躇った様子もなく人を殺す。それでも私は貴方が優しいということを知っています。死んでいった仲間の名前を一人ひとり忘れずに覚えている貴方は……優しい人です」
「俺は自分を優しいなどと思ったことは一度もない。ただ俺のせいで命を散らした者を自分への戒めとして忘れないだけの話だ」
俺はいつでもそうだ。
自分が傷付く選択肢を選ぶ。
誰かがつらい思いをするって分かっていながらそう行動する俺はきっとどこかが壊れているのだろう。
あの時もそうだ。
かつて魔王と呼ばれていたことがある。
御伽話で登場するあれのことだ。
他者を傷付けるだけの存在。
かつての俺はまさにそれだった。
悪は決まって倒されるように俺も勇者に倒された。
そして俺は自分を生贄にして世界を変えるつもりで……。
俺は死んだはずだった。
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