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ハイセと呼ばれた青年は怪しい笑みを浮かべる。
「黒衣さん……仮面を外して貰えないのですか?」
「あんたは負けた。よって外す資格なし」
黒衣はくくくと笑った。
「エヴァにだって見せたことがないんだ。そう簡単に見せられるものではない。これからよろしく頼むよ、ルカ・ダーククルム理事長」
そういうと黒衣はまた小さく笑い、エヴァを連れて生徒たちが住んでいる寮の方へと歩いていった。
「お兄様ではないのですか?」
残されたルカは空に向かってそう呟いた。
ルカの知っているアルト・アディンセルの魔力とは異なっているが、ルカの感じた魔力にはどこか懐かしいものを感じた。
そう思って口に出したが……すぐに訂正する。
「お兄様はあの戦いで死んだのですから」
「そんなに気になるの?ルカ」
ルカの背後にいつの間にか立っていたシスターがそう言った。腰まで伸びているよく手入れのされているその髪を風に靡かせながら黒衣の歩いて行った方向を眺めた。
「リアーナ……どうしたのですか?いつも孤児院から出ない貴女が」
「ぼ……わたしだってたまには出るさ」
「その一人称、まだ定着していませんね。昔みたいに『ボク』ではダメなのですか?」
「けじめだよ。わたしなりの……あの日。わたしは彼を守れなかった」
リアーナは悲しそうな表情で自分の手を見つめる。そこにはアルトから貰った指輪が嵌められていた。
「何時みても綺麗な指輪ですね。エンゲージリングには相応しいんじゃないの?」
「ふふっ。ありがとう。男避けって役割もあるけど本当の役割は彼の作った空間をわたしがそのまま引き継いだって感じだね」
アルト・アディンセルはあらゆる魔法を極めた唯一の人間ともいえる。その中で彼が最も多く使用したといわれる魔法が『ゲート』と呼ばれる魔法。
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