彼との距離

１．

　一体、どうしたって言うんだ？
「どけよ」
　足をばたつかせてみるも、しっかりと身体を押さえつけられていて、相手を退かすことが出来ない。
　はっきり言って、組み敷かれるような趣味は無い。
　ましてや、男に。

「いい加減に…」
　下になってしまった自分の方が力が入れにくいのは分かっていたが、それでも相手の腕を掴んで引っ張ろうとしたら、逆に俺の方が手首を掴まれて押さえ込まれる。
　相手の顔との距離が近すぎて、恥ずかしいような情けないような、よく分からない感情が込み上げる。

「さっきの、ずるいって何なんだよ」
　俺の言った言葉が発端でこういう状態になったのなら、謝るべきかもしれないが、理由もよく分からないのに謝るのは嫌だった。
　けれどこいつは問いに答えないまま、俺のことを見つめている。

「おい！」
　しびれを切らして俺が強めに言うと、いきなり荒々しく唇を塞がれた。