24人が本棚に入れています
本棚に追加
「お世辞だよ。冥土の土産に受け取れや」
「いちいち表現が古臭い。それに、まだ、死にたくないのよね」
「運がなかったんだよ。神を恨みな」
「神様なんてくだらないってお母さんが言ってたわ」
「ほおー」
「『所詮、神様なんて人が産んだものの一つに過ぎない。だったら人のほうが偉いに決まってる。なのにどうして神様に頼らなくちゃいけないの?』むちゃくちゃが売りのお母さんの迷言の一つよ」
名言でなく、迷言。こういうときでないと、とてもじゃないと言葉にできない。
これで会話の糸口になってくれればと思ったが、予想外にも、その男性は困惑した表情を見せた。
「それ……お前のお袋がさんがいったのか?」
「そうよ。面白いでしょ」
「まさかと思うが、その人、アキナって名前じゃないか?」
今度は、私が困惑する番だった。確かに、私の母の名前はアキナだ。私の返事を待たずに、男性は続ける。
「商人の商って書いてアキナ。苗字は」
「音々夢。音々夢 商(ネネム アキナ)。それがお母さんの名前よ」
「……あんたの名前は」
「ココロ。試すって書いて、試(ココロ)」
「音々夢 試か」
光が、消えた。放たれたわけじゃない。消滅したのだ。男性が、射つ気をなくしたようだった。
最初のコメントを投稿しよう!