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椅子やプラスチックやガラスや原型のわからないものの上に倒れていると、ぼんやりとお母さんのことを思い出した。不思議なお母さんだった。娘の私が言うのもなんだが、少し頭がおかしかった。
興味が湧くぐらいに、おかしかった。
思考回路が独特というのだろうか。同じものを見ているはずなのに、瞳に映っている景色が違っているような。黒い瞳と茶色の瞳では色の見方が違っているような。私が見ているものがお母さんには見えていないような。モノの裏側から見ているような。
一言で表してしまえば、”視点が違った”のだろう。
『落ちる夢ってあるでしょ』とお母さんは言った。『ああいうのを聴くたびに、やっばり人って予知能力があるんじゃないかって思うの。空から落ちる夢をみた。ドスンって音と痛みがあって、目を開けると、ベッドから落ちていた』
私は最近買った漫画の内容を思い出していた、そして、私が学校行ってる間に勝手に読んだな、と憤慨していた。
そんな私の気迫に気づいたのか、お母さんは視線を外す。横顔のお母さんは笑っているように見えた。
『不思議じゃない? ベッドから落ちるなんて、寝ている本人にもわからないはずなのに、”夢は落ちる夢に変わっていた”。まるでこれから起こることを予知して、それから夢を作り変えたような気がしない? どこかを歩いている夢でもいい。でも、急に落とし穴が生まれ、落ちる。飛んでる夢だとなおさらね。翼が消えて、真っ逆さま。夢だからなんでもありって考えは悪くないけど、でもそれでも、やっぱり不思議じゃない?』
「しない」私は言い切った。「それだって、そういう順番で考えるからおかしいんだよ。ベッドから落ちる前に夢が変わったんじゃなくて、ベッドから落ちたから夢が変わったんだよ。体を支えてくれるものがなくなった浮遊間が夢を変えた。これなら少しも変じゃない」
『そんなうまくいくかな』
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