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「こんなとき、かける言葉が浮かんでこない私は、どこかおかしいのかな」
壊れていないものは、なにもない。私もどこか壊された。だから、悲鳴もあげないし、涙も流さないしーーー
同情も湧いてこないのだ。
ここで死体を見ても、世界のどこかで毎日誰かが死んでいますと聴かされたのと同じ感覚。現実味が湧かないのではない。誰かが死んだ。その程度のことにしか考えられない。
二人死んだ。その五文字は、音にすれば六音は、それ以上の意味を持っていない。それ以上の重さを私に与えてくれない。
少しタイミングがずれていたら、私もあの死体の仲間入りをしていたはずだった。赤い花を教室に咲かせていたはずだったなに。
運が良かった。
たまたまいじっていたシャーペンが床に落ち、たまたまそれを取ろうとしゃがんでいて、たまたま
バランスを崩して椅子から落ちて、たまたまそのときに銃の乱射があって、たまたま弾が前にあった椅子やら机やらヒトやらに当たって逸れて、たまたまいろんなものの影になっていた私に当たらなかった。
それだけのこと。偶然が重なって、奇跡になっただけに過ぎない。今日日、奇跡は掴み取りで売られているようなものだ。このくらいの奇跡、珍しくもなんともない。
……本当に?
本当にそうなのだろうか。そんな奇跡がそうそう起こるものだろうか。その前に、”この状況はどうなっているだろうか”。
講義を受けていた最中に銃の乱射なんて出来事、あるものなのだろうか。いや、実際に起きているのだからあるのだろうが、まさか自分が遭遇するとは夢にも思わなかった。
「夢なのかな、これ」
夢だからこんな、怖いくらいの冷静なのだろうか。目の前に死体があっても、心臓が鼓動を早めるだけで叫び出したくなるほどの恐怖はない。
頬を抓ってみた。そういえば、夢を確かめるために抓ったのって始めてだなと思った。痛かった。
「ということは夢じゃないのよね」お母さんが言うようなことでなければ。具体的に言えば、誰かが私の頬をつねろうとしているのを予知し、それに伴い夢を作り変えたのだ。と、なっていなければの話だ。
「わかんないよ、もう」
状況がまるきり掴めない。今学内はどうなっているのだろう。
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