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6
私の髭は日ましに青草のように勢いよく延び初めた。今朝目をさまして見ると、もう殆どつけ髭にも劣らない位立派に生え揃っていた。
姉は勿論、怒って、泣いた。けれども私は、固い決心をもって姉のたあいもない我儘に抗った。
――髭を生やすことがなぜいけないのか?
私は、毀れてしまった操り人形のように、あわれにも精も根も尽き果てた様子で、明るい真昼間の日ざしの中で眠りこけている姉の寝姿を見ていると、自分もつい悲しくなるのだが、しかし私は姉をそんなに不幸にしてしまったとしても、それはあくまで自分の罪でないことを、自分の胸に幾度も云いふくめた。……私は、姉の体を食べても大きくなる事が必要だったのだ。して見れば今になって、唖娘の気紛れな感傷のために、大人になることを妨げられなければならない理由は何処にもない筈だ。……人生の曙に立って、私に価値あるものは、哀れな片輪者の泪ではなくして、立派な髭と、そしてあの美しい娘の恋だけである! と。
――自分は先ず自由な一本立ちの生活をしなくてはならない、と私は思い立った。
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