可哀想な姉

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 姉はやがて宏大なるビイルディングの一つをえらんで、些の躊躇なく這入って行った。そのビイルディングの軒端には「フラワー・ハウス」と云う電飾文字が明滅していた。それで私も黒いマントを脱いで大胆にその玄関へ踏み込んだ。金モールのいかめしい制服を着た門番も、その他の誰も、私を怪しむ様子はなかった。  姉はやはり私に気がつかないまま地下室の方へ降りて行った。階上の立派さに引き更え、地下室の廊下は、灰色の汚れた壁の間に挾まれて息苦しい程細く、そして低い天井に灯っている電燈はおそろしく薄暗かった。姉はその廊下の両側に幾つとなく並んだ木の扉の一つを開けて、その内側へ消えてしまった。洒落た身装の男達が退屈そうに廊下を往ったり来たりしながら、時々それらの扉の前に佇んだ。私は暫くためらった後に、リノリウムの上に足音を忍ばせて、マントをかぶってそっと姉の隠れた部屋へ近寄って見た。  木の扉に、いつか私が姉に頼まれて書いてやった覚えのある値段書が、もう色褪せて貼られてあった。
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