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「やっぱり蝨(だに)がついているんだ。可哀そうに。脚の爪の間に蝨がつくと、自分では取れないからな。よしよし取ってやるぞ」
森君は犬の脚を高く上げて、爪の間に西瓜(すいか)の種ほどの大きさに脹(ふく)れている蒼黒(あおぐろ)い蝨をつまんで、力一杯引張って漸(ようや)くの事で引離して、地面に投げつけると踏み潰した。その間犬は何をされているのか分っていると見えて、眼を細くしてじっとしていた。
「さあ、これでもうびっこを引かなくても好(い)いぞ」
森君はそう云って、犬の脚を離そうとしたが、その時にオヤと云って首を捻(ひね)った。見ると、脚の裏に何だか赤黒いものがベットリついている。
「血じゃないか。森君」
僕がびっくりして云うと、森君は首を振った。
「血じゃないよ。何かくっついているんだよ。変だなあ」
森君はポケットから紙を出して、犬の脚の裏をちょっとこすって見てから、脚を放した。犬は暫(しばら)くクンクン云って尾を振りながら森君にジャレていたが、やがて一目散にどこかへ駆けて行った。
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