贋紙幣事件

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 森君は何か考えながら黙って歩き出した。森君が考え事をしている時に、うっかり話しかけると怒るので、僕も矢張(やは)り黙って肩を並べて歩いて行った。  一軒の百姓家の前に来ると、十か十一位の女の子がぼんやり往来を眺めながら立っていた。森君は何と思ったか、女の子の傍に寄って訊(き)いた。 「このへんにペンキ屋さんがある?」  女の子は首を振った。森君は又訊いた。 「飛山さんて家どこ?」  すると、女の子は急に顔をしかめて、私達を軽蔑(けいべつ)したような眼でジロリと見たかと思うと、ぷいと向うの方に行ってしまった。  ああ、僕はその訳を知っている。いつか、島内君の時もそうだったけれども、飛山君は可哀そうに今この村の人に排斥(はいせき)されているのだ。その訳は、一体飛山君のうちは貧乏で、とても飛山君を中学へなんか出せないのだけれども、飛山君が学問が好きでよく出来るものだから、無理にせがんで中学に入れて貰(もら)ったので、飛山君は苦学をしているんだ。朝早く起きて近所の牧場へ行って、牛乳を搾(しぼ)ったり、いろいろの用をして、それから遠い道を学校まで通って来るのだ。学校から帰れば又人の家へ働きに行く。そんなに働きながら森君にまけない位よく出来るのだから全く偉いと思う。  所が、その飛山君がこの頃だんだん出来なくなってきた。臨時試験には何でも満点を取って置きながら、この頃はどうかすると先生の質問につかえて返事が出来なかったり、前の日に習った事を忘れたりする。どうも変だと思っていたら、やっぱり訳があった。その訳と云うのは、飛山君のお父さんは東京のどこかで贋紙幣(にせさつ)を使おうとして捕まったんだそうだ。そして今は警察に留(と)められているんだって。こんな心配があっては飛山君の出来が悪くなるのは当前(あたりまえ)だ。そんな事で、村の人はきっと飛山君を排斥しているに違いない。  僕は前の島内君の事があるので、飛山君と遊んで好(い)いかお母さんに訊(き)いて見た。するとお母さんは、
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