贋紙幣事件

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「構いませんとも。飛山さんは少しも悪い事をしたんじゃありませんし、飛山君のお父さんも、学校の先生に伺ったり、新聞で読んで知ったのですけれども、贋紙幣を拵(こしら)えたのではなくて、使おうとしただけで、しかもそれは贋(にせ)だとは知らなかったのです。けれども、飛山さんのお父さんは、その紙幣(さつ)がどうして手にはいったかと云う事をどうしても云わないのです。それで警察に留められているのです。お父さんは大方誰か恩になっている人から、それを貰ったので、その事を云うと、その人の迷惑になると思って黙っているのでしょう。今時|他人(ひと)の迷惑になるのを恐れて、警察に留められても黙っているなんて珍らしい方ですよ」 「お母さん、贋紙幣ってどうして造るの」と訊いて見たら、お母さんはそんな事は知らないと云った。そうして紙幣(さつ)と云っているけれども、あれは正しくは兌換券(だかんけん)と云うもので、日本銀行と云う銀行が発行しているので、兌換券と云うのは、そこへ持って行けば金貨と兌換して呉れるからで、兌換と云うのは換える事だそうだ。あんな紙だけれども日本銀行へ持って行けばいつでも金貨と換えて呉れるから、それだけの値打があるので、贋紙幣だったら紙だけの値打しかないのだそうだ。だからそんなものを無闇(むやみ)に造って使われたら大変なので、重い罪にしてあるそうだ。この紙幣(さつ)の発行は日本銀行だけれども、拵(こしら)えるのは印刷局だそうだ。造幣局と云うのは、金貨や銀貨や銅貨を造る所だそうだ。紙幣(さつ)は贋(にせ)が中々出来ないように、紙から特別に拵えて、意匠やら模様やら色やら骨が折ってあるので、ちょっとした事では贋紙幣なんか出来るものではないそうだ。
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