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飛山君の家を訊いたら女の子が逃げ出したので、森君と僕とは又歩き出した。すると向うの方から白い犬が尻尾(しっぽ)を振りながら飛んで来た、見ると、先刻森君が脚の蝨(だに)を取ってやった犬だ。その犬の他に二三匹仲間の犬がいてしきりに、ジャレ始めた。
森君は例の如く舌を鳴らして、他の犬をみんな呼び寄せたが、何と思ったか、一匹ずつ抱いては脚を上げて脚の裏を調べた。最後に一匹少し大きい茶の斑(ぶち)の強そうな犬は、わんわんと吠えて、中々傍へ来そうになかったが、森君は例の可愛(かわい)い白い犬を囮(おとり)にして、とうとう傍に来させて捕まえた。前脚をあげると、その犬にはベットリと例の赤黒いものがついていた。
森君が余り自由に犬を扱うので、面白くなったと見えて、さっきの女の子が又傍に寄って来た。森君は白い犬を指(さ)しながら訊いた。
「これ、どこの犬?」
「藤山さんとこんだ」
「これは」森君は茶の斑犬(ぶちいぬ)を指した。
「お寺んだ」
「お寺? どこにあるの」
「この先の大きな銀杏(いちょう)のあるお寺だあ」
森君は犬を放して起上(おきあが)った。
「風岡君。お寺へ行って見ようや」
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