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三
「僕は始めには何にも知らなかったさ」
坊さんが捕まって、森君の云った通り贋紙幣を造っていた事を白状した時に、森君はちょっと得意になって云いました。
「僕は飛山君が気の毒だと思って、一ぺん飛山君の家へ行って、お父さんが貰って使おうとしたと云う贋紙幣はどこから来たのか、旨(うま)く行けば尋ね出したいと思ったんだよ。所が道で、ホラ、びっこを引いた犬がいたろう。脚の爪の間の蝨(だに)を取ってやる時に、ふと脚の裏を見ると赤味のかかった紫色のインキがついているじゃないか。僕は知っているけれども、之(これ)は普通のインキじゃない。印刷用の上等のインキなんだ。念の為にペンキ屋があるかと聞いて見たがないと云うし、田舎に印刷屋がある筈(はず)もない。おかしいなと思って、他の犬を調べて見たが、一匹だけ、ホラ、茶の斑(ぶち)のお寺の犬の脚の裏にベットリと同じインキがついているんだ。白い犬と斑犬(ぶちいぬ)は親友らしく、いつも一緒にふざけているらしい。そこで、僕はお寺へ行って見る気になったのさ。そうしたら、二匹の犬がお堂の縁の下へ駆け込んだろう」
「うん」僕はうなずいた。「それで、君はわざと五十銭銀貨を落して、縁の下へ潜りこんだのだね」
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