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可哀想な姉
1
すたれた場末の、たった一間しかない狭い家に、私と姉とは住んでいた。ほかに誰もいなかった。私は姉と二人きりで、何年か前に、青い穏やかな海峡を渡って、この街へ来たのであった。
そして姉が働いて私を育ててくれた。
姉は、断っておくが、ほんとうの私の姉ではない。姉の母は、私の従姉である。私の父は姪に姉を生ませた。しかも姉は生まれ落ちてみると唖娘であった。
だが、もう私達の父も、姉の母も、私の母もみんな死んでしまって、今はふるさとの海辺の丘に並んだ白い石であった。
唖娘の姉と二人で久しい間暮していて、私達と往来する人はこの街に一人もいなかったし、私は一日中つんぼのように、誰の声をも聞かなかった。
姉がどんなに私をいつくしんでくれたか! 姉は毎晩々々夜更けてから、血の気のない程に蒼ざめて帰って来、私にご飯を食べさせてくれた。
姉はまた、私を抱いて寝てくれもした。私は、魚のように冷めたい姉の手足が厭であったけれども、それでもすなおな私は、姉の愛情にほだされて、何時でも泪ぐんで、姉の体を温めてやった。
その中に姉は悪い病気に罹った。胸の悪くなるような匂が、姉の体から発散した。姉は、私にその病気が伝染するのを恐れて、もう一緒に寝るのは止してしまった。
私は淋しく一人で寝た。そして一人で寝ている中に、何時の間にか大きい大人になった。
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