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「あれ……ここは……どこ?」
意識がはっきりしてきた私が横になったまま目だけを動かすと、知らない部屋にいることが分かった。
掛軸と文机と布団しかない、殺風景な和室。私のゲームやアイドルのCDは見当たらない。
第一掛軸なんて持ってないし、私の部屋は和室じゃない。
一体ここは何処なのか。
私はゆっくりと起き上がる。
「起きたか?」
そんな私の枕元に、黒髪の一人の男性が座っていた。
鋭い目付きをしていて、鼻は高め。クールな人だな…と思う。
でも、私の脳内にこんな顔の人はいない。初対面の人。もちろん私が初対面の人を招くはずがない。もしかして、この部屋はこの人の……
「誰?」
誘拐?拉致?監禁?
あわわわわ、どうしよう私。
なんかヤバいことに巻き込まれちゃった?
あたふたする私を、怪しそうに男の人が見つめる。
「お前、何をやっている?」
「何って、知りませんよ。だって私は塾の帰りでバスに乗り遅れて……っていうか、ここはどこですか?拉致監禁は犯罪ですよ」
私は男の人に訊く。
「お前、記憶がないのか?今は文久三年、六月一日だ。あと、俺はお前を誘拐も拉致も監禁もしていない」
重要!と最後の部分を男の人が口調を強めて私に教えてくれる。
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