旅は道連れ世は情け

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千田さんは本当にすぐに来た。 電話を切ってから30分も経っていない。 場所も教えていない上に、千田金融の事務所からここまでは30分以上かかるはずなんだけどな……。 恐るべし、千田金融。 「それじゃあ早速取り引きしましょか。 と、言いたいところやけど。」 千田さんはワゴン車に乗る三人を見て言う。 「あれ、誰や? お前の仲間か?」 「いや、仲間というか道連れというか……。」 なんと言ったらいいのだろうか。 「まあ、ええわ。 こっちは金さえもらえればそれでええ。 で、金はあるんか?」 「はい……。」 俺が鞄を出すと、千田さんはそれをひったくり、横に立っている子分に渡す。 「確かに、800万円ありまっせ。」 子分が言ったのを確認し、千田さんは俺に車のキーを差し出す。 「あそこに停まっとる車を使え。 古いけど、まあなんとか動くわ。」 千田さんが指差した方向に目を向けると、黒く光るベンツとボロボロの軽四が停まっている。 「あのベンツですか?」 「あれはワイのや。 お前のは、あのボロ車や。」 「ですよねぇ……。」 明らかに100万円の価値はないであろう車だが、逃げるためには仕方ない……。 「取り引き成立やな。 まいどどうも。」 「ありがとうございました……。」 銀行強盗までして、結局俺の手に残ったのはボロの軽四だけ。 これじゃあ水道代どころか今日の晩飯も食えない……。 「ほれ。」 俺の胸に、千田さんが何かを押し付けてきた。 「これって……。」 それは、札束だった。 「心配すんな、綺麗な金やから使っても問題ないわ。 急やったからそんくらいしか用意出来んかったが、まあ好きに使えばいい。」 「え、いや、でも……。」 「ワイらの仕事は金貸しや。 法外な利子で稼ぐから、払えんと逃げたり首吊る人間もおる。 ただ、お前はバカ正直に強盗までして金を返そうとした。」 千田さんは俺に背を向け、続ける。 「その金でもう一回人生やり直せ。 もう、ワイみたいな人間から金借りたりはすんなよ。」 「せ、千田はん……。」 あれが、浪花の男の背中か……。 俺は折り目のついた札束を握りしめ、千田さんの背中へ向かって敬礼をした。
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