旅は道連れ世は情け

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「お、オラァ……。 強盗だ、金を出せ……。」 銀行の前で、小声で何度も同じ言葉を繰り返す。 春の暖かい日差しに包まれて、俺はこれから生まれて初めての銀行強盗をするつもりなのだ。 「よ、よし、やるぞ……。」 懐には包丁。 鞄には、忘年会で使ったレスラーマスクの覆面と手袋代わりの鍋つかみ。 忘れ物はないな……。 銀行脇の小道でレスラーマスクを被り、鍋つかみと包丁を装備。 軽く呼吸を整え、勢いよく銀行へ飛び込む。 「お、オラァ!! 強盗だ、金を出せ!!」 練習の成果か、迫力満点、最高の登場だ。 俺はポカンとする銀行マンに包丁を向け、鞄を投げて言う。 「この鞄に金を詰めろ!! 早くしろ!!」 銀行マンはようやく状況がわかったのか、慌てて机につまづきスッ転ぶ。 「だ、大丈夫か? おい、お前!!」 横で見ていた銀行ウーマンへ包丁を向ける。 「は、はい……。」 「手伝ってやれ。」 「あ、はい。 かしこまりました。」 銀行強盗相手にかしこまることもないんだけどな。 そんなことを考えながら、鞄に札束が突っ込まれていくのを見つめる。 あの札束、一つが100万円だとして……。 ひいふうみいよおいつむう……。 「ちょ、ちょっと待った! そんなにいらない!! もう十分だから!!」 慌てて鞄をひったくる。 正直、200万くらいあればいいかなと思ってたが。 強盗ってのはものすごい儲かるんだな……。 なんてことを悠長に考えていると、けたたましい警報音が鳴り響いた。 どこからかガードマンらしき男が現れ、俺に向かってくる。 「やっば……。 じゃ、えっと、ありがとね!!」 とりあえず頑張ってくれた銀行マンに言い、俺は駆け出した。
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