10人が本棚に入れています
本棚に追加
「お、オラァ……。
強盗だ、金を出せ……。」
銀行の前で、小声で何度も同じ言葉を繰り返す。
春の暖かい日差しに包まれて、俺はこれから生まれて初めての銀行強盗をするつもりなのだ。
「よ、よし、やるぞ……。」
懐には包丁。
鞄には、忘年会で使ったレスラーマスクの覆面と手袋代わりの鍋つかみ。
忘れ物はないな……。
銀行脇の小道でレスラーマスクを被り、鍋つかみと包丁を装備。
軽く呼吸を整え、勢いよく銀行へ飛び込む。
「お、オラァ!!
強盗だ、金を出せ!!」
練習の成果か、迫力満点、最高の登場だ。
俺はポカンとする銀行マンに包丁を向け、鞄を投げて言う。
「この鞄に金を詰めろ!!
早くしろ!!」
銀行マンはようやく状況がわかったのか、慌てて机につまづきスッ転ぶ。
「だ、大丈夫か?
おい、お前!!」
横で見ていた銀行ウーマンへ包丁を向ける。
「は、はい……。」
「手伝ってやれ。」
「あ、はい。
かしこまりました。」
銀行強盗相手にかしこまることもないんだけどな。
そんなことを考えながら、鞄に札束が突っ込まれていくのを見つめる。
あの札束、一つが100万円だとして……。
ひいふうみいよおいつむう……。
「ちょ、ちょっと待った!
そんなにいらない!!
もう十分だから!!」
慌てて鞄をひったくる。
正直、200万くらいあればいいかなと思ってたが。
強盗ってのはものすごい儲かるんだな……。
なんてことを悠長に考えていると、けたたましい警報音が鳴り響いた。
どこからかガードマンらしき男が現れ、俺に向かってくる。
「やっば……。
じゃ、えっと、ありがとね!!」
とりあえず頑張ってくれた銀行マンに言い、俺は駆け出した。
最初のコメントを投稿しよう!