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「待てコラァ!!」
怒声と共に、警棒を振り回しながらガードマンは俺を追って来る。
「すんまへん!!
堪忍してくんなはろ!!」
わけのわからない関西弁を叫びながら、俺も走る。
鍋つかみと包丁を持ち全力で走るレスラーマスクがよほど珍しいのか、すれ違う人はみなスマホで俺の写真を撮っている。
Twitterとかにアップされるんだろうか……。
なんて、そんなことを考えている場合ではない。
レスラーマスクのせいで息苦しい。
そろそろガードマンを振り切らないと、いい加減ヤバい……。
そう思った矢先。
俺の目の前に、都合よく停車中の車が見えた。
黒いワゴン車だ。
「お邪魔します!!」
俺は、藁にもすがる思いでワゴン車の助手席へ乗り込み、ドアをロックする。
「な、なんだ君は!!」
運転席に座る汗だくのデブが俺を見て言う。
お前こそなんだ。
汗を拭けよ。
「不審者に追われてるんです!!
とにかく、早く車を出してください!!」
「どう見てもお前の方が不審者じゃないか!!」
そうだった。
今の俺は、レスラーマスクだった。
「いいんじゃない。
どうせ、僕らに行き先なんてないんだからさ。」
と、後部座席に座るメガネの青年が言う。
「ありがとう!!
君、いいメガネしてるね!!」
「メガネは関係ないだろう。」
「しかしなあ……。
ナナちゃんは、どう思う?」
デブが聞くと、メガネの隣に座っていたパッツン少女が驚いたように顔を上げる。
「わ、私は別に……。」
「ほら、別にいいってよ!!
早く出して!!」
「……わかったよ。」
デブはため息を一つ、車のアクセルを踏んだ。
こうして、俺たちの奇妙な逃避行は始まったのだ。
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