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「で、ワイに金を返すために銀行強盗したから逃走用の車を寄越せ、と。」
電話の向こうで、千田さんは俺の言葉を吟味するように言った。
そう、俺が電話をかけた相手は千田さんだ。
千田さんなら、この追い込まれた状況をなんとかしてくれるはずだ。
「お前、ほんまアホやな!!」
そう言って、千田さんは突然笑いだす。
「借金返すために強盗て!!
そないな度胸あるなら夜逃げでもすりゃよかったやろ!!
「え!!
夜逃げしてもよかったんですか!?」
三十六計逃げるに如かず。
なるほど、その手があったか……。
それに気づかず、銀行強盗なんてした俺はどうしようもないマヌケだ。
「ま、逃げたところでワイは地の果てまで追いかけるけどな。」
「ですよねぇ。」
逃げなくてよかった。
マヌケ万歳だ。
「にしてもお前、銀行強盗の逃走を手助けするとなると、こっちもそれなりにリスクは負うことになるからなあ。
金は高くつくで。」
「い、いくらくらいです?」
「車代で100万。
お前の借金が100万。
手数料が600万のしめて800万円ってとこか。」
「手数料600万円!?」
思わず声をあげると、車内の三人が一斉に俺に顔を向ける。
俺は少しかがみ、声を落として話を続ける。
「それはいくらなんでもぼったくりすぎじゃないですか……。」
「アホか。
こっちだってしょっぴかれるリスクがあんねんから、これでも安い方や。」
「うーん、でもなあ……。」
俺が強盗で得た金はちょうど800万円。
払えないことはないが、また一文無しになってしまう。
「まあ、払わへんってなら別にええで。
逃げ切れるかどうかは知らんけどな。」
「わ、わかりましたよ!!
払います、800万円。」
「そう来んとな!!
よし、そうと決まれば話は早い。
すぐそっち向かうわ!!」
生き生きとした声で言って、千田さんは電話を切った。
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