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「こいつさえあれば、この国は十年、十年!他国に差をつけられるというのに!」
ルーシャスは狙いを僕につけたようだった。
左腕で横振りに僕の身体を吹き飛ばそうとする。僕は詠唱しながらしゃがんでそれを避けた。頭上で粉砕音。瓦礫の山が降りかかってくる。そうして水面に落下して飛沫が僕の口に入った。
「ぶーっ、ぶしーっ!」
思わず唾を吐き捨てる。そこに下ろされる右腕、避ける。そして腕の先に取り付けられていた先の尖った細い棒が急激に回転し始めた。
一体、どういう機能なのかさっぱりわからなかったが、案の定ものすごい量の水飛沫が立ち上がって、もう詠唱どころではなくなった。酷い目くらましだ。
「糞」
目をぬぐってようやく視界が晴れると、目の前には迫りくる機械の左腕があった。
「嘘」
今までのことが走馬灯のように駆け巡る。
故郷の村で走り回ってた頃のこと。そこでの友達、ブッチ、サニー、エナ。
首都に来てからのこと。親切にしてくれた最初の大家。本当は親切だった二番目の大家。本当に親切じゃなかった三番目の大家。上京してから付き合い始めて今はどこで何をしてるかもしらない彼女のこと。
化物の頭。走る馬。凍った兎の頭。
そして憲兵隊に入ってからのこと。特にしたことがあるわけでもないけど、でもトーマ先輩と過ごした時間は今までの人生のなかで最も静かで穏やかな時間だった。
僕がいなくなってから、彼女はあのクモの巣の中で一人でやっていけるのだろうか。
でもそれは傲慢というものだろう。
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