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「動力源は……」
その前に化物は大きく体を揺らし先輩を振り落とした。宙に放り投げだされながらも器用に回転して先輩は着地する。
しかし、そこにはすでに右腕の高速回転する棒が迫っていた。僕は一瞬最悪の結果を覚悟して、先輩を見た。でも、そこで先輩は笑っていた。
「終わりだ」
その瞬間、棒は回転を止め、代わりに回転したのは化物の体躯の方だった。
そのでかすぎる図体が回転し、下水道の壁に叩きつけられる。煉瓦の壁は崩壊し、化物は頭を下にして半壊状態。もう動くことはないだろう。
ぽちゃり、と先輩の右手の先から鋼鉄の棒が落ちた。
「ふう」
と溜息をついたところで先輩が吹き飛ばされた。漏れそうになる声を必死で抑える。
「糞。邪魔ばかりしよって!これにかけられた時間と金を知らんのか貴様ら!」
鉄クズの隙間から体を捻り出したルーシャスがそう叫んで、脱兎の如く駆け出そうとした瞬間、僕の詠唱が終わった。
僕が選んだ最上の魔法は爆発魔法だった。
だけど、それはルーシャスを狙ったものじゃない。
どばああんと、ものすごい音を立てて逃げ去る彼の目の前で水柱が立った。衝撃で彼はこちら向きに吹っ飛ぶ。
下水を転がり、僕の足元まで来た彼は下水まみれで気を失っていた。これは僕と先輩を汚水まみれにしたほんのちょっとした仕返しだ。
僕はこいつを殺すほど冷徹にはなれないし、仕事だからと割り切って逮捕することもできない。
拳銃も撃てない未熟な僕が出来るのはこんな個人的な憂さ晴らしだけだ。
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