プロローグ

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揺れる長い髪と落ちるレモンケーキ。 それが彼女の、トーマ・スプリングスにまつわる最初の思い出だ。 最初、僕はやる気に溢れる憲兵隊員志望で、それが何に起因するかはここでは伏せておくけどとにかく、僕は市民の皆さんを守る為にバリバリ仕事をする気だったから、都市特殊不正犯罪捜査及び対策課に配属されたときの絶望といったらなかった。 この異常に長い癖に何を指してるのかわからない犯罪を捜査及び対策するという部署はつまりは憲兵隊の左遷先だった。何を捜査して対策するかわからないのだから、それはそうだろう。 そんなこともあって僕は酷く落ち込みながら、対策課のドアの前に立っていた。 対策課は憲兵隊第二分隊の兵舎の隅っこ、通称クモの巣と呼ばれている(汚いのと、あと入ったら出てこれない)区画に存在する。一応、窓は開いているのに何か乳製品が腐ったような臭いがする。臭い。 ああ、これから僕は対策課で一生埋もれていくことになるのだろう。毎日出勤しては、一日特に何をすることもなく暇を潰して定時に帰るのだろう。 そうして最初の方は理想と現実のギャップに悩んではいるものの、三十越えた辺りからもう面倒くさいのいいし、みたいな感じになって先輩のおっさんとくだらない話をしながら、諦観漂う感じで退職するのだろう。
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