2人が本棚に入れています
本棚に追加
この対策課に配属されてはや一か月、その間、僕がしたことと言えばお菓子の買い出しとトーマ先輩の話相手及びチェス相手、ぬいぐるみのお使いくらいだろう(このトニーがマロンタルトを欲しがってる、と先輩が蛙のぬいぐるみを片手に言い張っていた。買ってきたマロンタルトは先輩が喰っていた)。
僕には、憲兵隊の役立たずを放り込む以外にこの空間に全き存在理由が見出せなかった。
「先輩」と目の前でポーンを握っている彼女に呼び掛ける。
「何、待ったなしだよ?」
「いえ、そうじゃなくて。この部署のことなんですけど」
「何」彼女のポーンが僕のルークを奪った。
「ここの仕事ってなんなのかなあって。俺入って来てからまだ何もしてないですよ」
僕のナイトがそのポーンを斃す。
「今してるじゃん」
「いや、これはただ遊んでるだけでしょう」
「私達の仕事は基本的に依頼制なのよね。ええ、だからそのー、仕事がない限りはしようがない。にっちもさっちも行かなくなったお上が来るのを待つしかないよね」
「そんな適当な」
彼女のビショップが僕のポーンを取った。
「チェックメイト」
「……またですか」
今のところ、十八戦十八敗。彼女は強すぎる。
「まあ、何か食べよう。食べたら寝よう」
等と先輩は立ち上がりながらぼーっとキッチンに向かった。
寝ようとか言われても、トーマ・スプリングスの場合、生き様が適当すぎて全然いやらしい気分にならない。
今のところの彼女にとって昼寝は必須のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!