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彼女に連れられて到着したのは草原のような庭のある大きな屋敷だった。まるで敵が多い貴族の要塞か城だ。
これは先輩の知り合いの家なのか。そう思った自分に苦笑する。まだ勤務時間だというのにすでに思考は休暇モードだった。
「一体何なんですか。急に連れ出して。今まで仕事もなかったのに」
「だから言っただろう。お仕事が入ったんだよ」
その口調は明らかに何かを馬鹿にしていた。何かはわからないけど。僕は溜息をついた。
「さっきのホロウマンっていうのは?」
「私につけられた綽名だよ。周りから見ると私は仕事をしてないように見えるらしい。まあ、仕事をしたくないのは事実だが」
「ここは?」
そう問うと、彼女はにやっと笑った。
「犯人の家」
どういうことかと尋ねる前に先輩は家の扉にあるノッカーを叩いていた。ゴツンゴツンと化物の頭をコンクリートに叩きつけてるような音。
しばらくして、扉が開き、中から顔を出したのは初老の男だった。長く豊かな白髪を後ろに撫でつけ、それより少し金がかった髭を胸元まで伸ばしている。
「どちら様でしょうか」
「都市特殊不正犯罪捜査及び対策課ですう」
少しの沈黙。一体何故トーマ先輩はうちの課の名前を出したのだろうか。とんでもなく長い名前を出して素人を圧倒させようとしたのか。それとも。
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