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その言葉を聞いた途端、男は微笑んだ。
そして圧が僕らを襲った。
何者かに両手で押し飛ばされたように僕と先輩は吹き飛んだ。若干の間、宙を舞い綺麗に刈り揃えられた芝生に背中を叩きつけた。
チカチカと星の光が飛ぶ中、霞む目を凝らすと男は踵を返して屋敷の中へ駆け込むところだった。少し染められ始めたものの、僕だって一応憲兵隊だ。痛む身体を叱咤し、起き上がると彼を追って屋敷の中へ走った。
屋敷は見た目と同じく道楽貴族の趣味に相応しい内装だった。高そうな絵画、壺、花瓶に花。そしてまたもや圧が僕を襲い、それらごと吹き飛ばした。先ほどより距離が遠かった為か今度は耐えきれる。
しかし、この衝撃波はなんなのか。口元が阿動いていなかったから詠唱破棄の魔法には思えない。何かしらの魔法を使った道具だろうか。
だん、と裏口と思しき扉を開いて男が屋敷から飛び出す。飛び出した先はまたもや巨大な庭。巨大な、開けた。
僕はすかさず腰の拳銃を取り出し、照星で男を捕える。訓練では悪くない成績だった。きっと足だけ撃ち抜ける。
「……」
糞。なんで引けないんだ。絶対大丈夫だ。自分なら男の足だけを撃てる。自信を持て。大丈夫。
銃弾が逸れて腹に当たり内臓をぶちまける、後頭部に当たって脳漿をぶちまける、なんてことは起こらない。
なんでこの指は動かないんだ。そもそもあの男が何をしたというんだ。あいつは僕らを聞いて逃げ出しただけで、未だに罪があるかどうかを僕はまだ知らない。
「畜生……」
僕は膝をついた。景色の向こうには蟻のような男の背中が揺れて、やがて消えた。
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