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「まあ、気にするな。説明してなかった私も悪かった」
そう言って先輩は僕の肩を叩いた。
僕らはあの後、屋敷を後にして中央近くの広場の噴水台に座っていた。本当に気にしていないような彼女の素振りに相対的に心が痛くなる。
「すいません。もう少しで捕まえられたのに」
「もういい。今はあいつの行方が先だし」
「あの男は何者なんですか。詠唱破棄すらもなしで魔法を使っていたし……」
「あれは魔法ではない」
「え?」
先輩は僕ではなく、広場で大道芸を行うピエロを見つめていた。
「私たちは魔法の原理も未だによくわかっていないが、それ以上に不明なもの、それがあのじいちゃんが使った能力。私たちはあれを蛇足と呼んでいる」
「蛇足?」
ピエロがナイフを投げた。宙を回転したナイフは落下してピエロの口に収まる。子供たちが歓声を上げた。
「魔力を原動力としない物理法則を無視した現象を任意の意思で起こすことのできる技能」
それがその定義、とトーマ先輩は呟いた。
その時、彼女はぐーたらしてただけでなく、僕にはまるで想像もつかなかい厄介な事象と対峙し続けてきたのだと悟った。
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