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背後の扉は閉められ、二人きりになった病室は僅かばかり緊張が走っていた。
「どうして柿崎の名前を使ったんだい……渡瀬くんか?」
すぐにチエミの名前が出てきたことに驚いたが、双方で驚いている余裕はない。
「…用件だけ言いに来ました。明日の午後2時に、渡瀬さんがここへ来ます。奥さんと彼女が引き合うことはありませんから、ご安心ください」
スグルはそうか、とだけ言って目線を落とした。
会釈をして部屋を出ると、廊下の向こうから花瓶を抱えた奥さんが戻ってきた。
「あら?もうお帰りになるの?」
「すみません、仕事のついでに寄ったものですから」
「そう……またいつでもいらしてくださいね。今日はありがとうございます」
横を過ぎる際、仄かな香りを感じた。この病室と同じ匂いだと分かるのに時間はかからなかった。
…チエミは無事、空白だった時間の想いを埋められるのだろうか…?
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