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由衣は自宅のベッドで目を覚ました。
窓の外は既に明るくなっていて、壁の時計は七時を指している。
由衣は起き上がると、両手で顔を覆った。
昨夜見た白い目が鮮明に焼き付いてしまっている。煮魚のような目だった。細い血管が眼球の下からまるで草が生えるように伸びていた。真っ白な眼球の印象が強烈だったが、肌にあった無数のシミや、揃った前髪の艶感も記憶には残っている。
あれは……志保里ちゃんなの?
「起きたのか? 朝飯作ったから食べるか?」
リビングへ繋がる引き扉は開いていて、マグカップを二つ持った智樹が通りすぎた。
なんて素敵な旦那様なんだろう、と由衣は心底思う。
自分の性格はわりと難があると自覚しているつもりだが、難があるが故に一緒に居てくれるのでは? と思ってしまうほど智樹は優しい。智樹と出会った当時十九歳。同じ美容専門学校の一年先輩に智樹はいて、この付き合いは由衣の一目惚れから始まった。
「食べないのか?」と、壁の陰から顔を覗かせる智樹に「いまいくー」と応えてベッドを降りた。
今の声、心なしか甘えたかな?
気恥ずかしさを覚えながらリビングへ向かう途中、壁際に置かれた全身鏡が目についた。
喪服の上着と、寝間着のパンツ。
着替えさてくれたんだ、と感謝しつつも、やりすぎ! 優しすぎ!と赤面してしまう。
熱くなった顔を片手で仰ぎながらリビングへ向かい、もう片方の手で引き戸を閉めた。
「すごい恰好だな」と笑う智樹に、「嫌いになった?」と返してみると、智樹はマグカップを置いて真顔のまま「大好きだよ」と言って目尻に皺を作った。
「やめてくれる!? ばかじゃないの!?」
慌てて目の前のマグカップに手を伸ばして口へ運んだ。
「あああ熱いッ!」
智樹は「なにやってんだ」と笑いながらトーストをサクリと鳴らした。
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