第四章

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由衣は最後の客を見送ると、バックルールへ向かった。 バックルールにはすでに営業を終えた智樹と心愛を含め五人いる。 「あー、高木さんお疲れさまでーす」 心愛はそう言うと、ソファに座る智樹の前で一歩後退して距離を開けた。 「そーいえば今日、お客さんですごい怖いこと言ってた人いましたよー」 由衣はハンガーからジャケットを取ると「へー、どんな? もしかして七瀬さんのこと?」と心愛を見た。 「知ってるんですか!?」 「あのお客さんねえ、よく見るって聞いたことあるもの」 由衣は両手を胸の前で垂らし、白目を作ると心愛に歩み寄った。 「おーまーえーのーかーたーにーもー」 顔面蒼白の心愛に面白がっていると、智樹が「じゃれ合ってないで早くしろよ」と立ち上がった。 「はーい」 由衣は今朝来たときに脱ぎ捨てた靴を探した。 「で、なんて言ってたの? 七瀬さん」 「なんかー、うちのお店って全部ガラス張りじゃないですかー、そしたらー、あのお客さんがー、お店の前にずっと女の子が立ってるーなんて言うんですよー、でもそんな子いなかったじゃないですかー、もうわたし驚いちゃってー、マッサージ適当に済ませて逃げてきちゃいましたよー、ちょー恐ろしくないですかー!?」 心愛はキャーと鳴いて智樹に抱きつき、由衣は探し当てた靴に手を掛けたまま固まっている。 「ちょ、マジでやめて」 智樹はそう言って心愛を突き放した。
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