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由衣は最後の客を見送ると、バックルールへ向かった。
バックルールにはすでに営業を終えた智樹と心愛を含め五人いる。
「あー、高木さんお疲れさまでーす」
心愛はそう言うと、ソファに座る智樹の前で一歩後退して距離を開けた。
「そーいえば今日、お客さんですごい怖いこと言ってた人いましたよー」
由衣はハンガーからジャケットを取ると「へー、どんな? もしかして七瀬さんのこと?」と心愛を見た。
「知ってるんですか!?」
「あのお客さんねえ、よく見るって聞いたことあるもの」
由衣は両手を胸の前で垂らし、白目を作ると心愛に歩み寄った。
「おーまーえーのーかーたーにーもー」
顔面蒼白の心愛に面白がっていると、智樹が「じゃれ合ってないで早くしろよ」と立ち上がった。
「はーい」
由衣は今朝来たときに脱ぎ捨てた靴を探した。
「で、なんて言ってたの? 七瀬さん」
「なんかー、うちのお店って全部ガラス張りじゃないですかー、そしたらー、あのお客さんがー、お店の前にずっと女の子が立ってるーなんて言うんですよー、でもそんな子いなかったじゃないですかー、もうわたし驚いちゃってー、マッサージ適当に済ませて逃げてきちゃいましたよー、ちょー恐ろしくないですかー!?」
心愛はキャーと鳴いて智樹に抱きつき、由衣は探し当てた靴に手を掛けたまま固まっている。
「ちょ、マジでやめて」
智樹はそう言って心愛を突き放した。
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