100人が本棚に入れています
本棚に追加
食事を済ませ、他愛もない思い出話に部屋の時間は穏やかに流れた。
美和子の結婚披露宴のこと、志保里が産まれたときのこと、由衣が智樹をはじめて連れて来たときのこと。
「ていうか、あの時はお姉ちゃんが、ひとりじゃ絶対産めないから来てくれって私に頼んだからじゃない!」
「頼んだけど、私より感動して泣き崩れろーだなんて頼んでないわ、そのお陰で私が変に冷静になっちゃったのよ」
「だって仕方ないじゃない! 赤ちゃんがあんなに可愛いだなんて知らなかったんだもの!」
この話題になると、次には決まってその矛先が智樹に向く。
「ほら智樹さん、由衣だってこんなに赤ちゃん欲しがってるんだから、ねーあなたもそう思うでしょう?」
茂は赤黒くなった顔に白い歯を浮かべる。
「ああ、私も美和子に同感だね」
「ちょっと待ってよ! 私は別に欲しいだなんて一言も……ていうかまだ結婚もしてないんだから!」由衣は口を尖らせた。
茂は無理矢理に智樹にグラスを持たせ、なみなみとビールを注いだ。
「金のことは私達だって援助するし、もう自分の店でも構えて由衣ちゃんと二人でやればいいんだ。子供ができたなら美和子だって喜んで世話するぞ? なあ、そうだろう?」
「もちろんよ、そうすればいいわ! もう決まりよ!」
智樹はグラスを仰ぎ一気に飲み干すと、立ち上がって声高らかに雄叫びをあげた。
「よし! 結婚しよう!」
天高く突き出された空のグラス。
由衣は呆然とそれを眺めていた。
最初のコメントを投稿しよう!