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「お姉ちゃん、ところで話ってなに?」
由衣が切り出すと、美和子と同時に茂の表情が強張った。
今まで気づかなかった時計の音が、やたらと大きく鼓膜を揺らす。
住宅街の夜はそれこそ無音で、茂が唾液を飲み込む音までが鮮明に聞き取れた。
「実はね、由衣に……いえ、二人に見てもらいたいものがあるの」
由衣と智樹が顔を見合わせる横で、美和子は立ち上がった。
「一緒に来てくれる?」
玄関に向かい、階段の電気をつける。
「ちょっと待って」由衣が足を止めた。
「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
小刻みに震えている身体を由衣は自ら抱きしめた。
「ごめん……何でもない」
震えを抑えようとする由衣に美和子は言った。
「由衣も……見たのね?」
由衣はグッと手を握り締めて顔を上げた。
「大丈夫、行きましょう」
階段に足を掛けると普段なら気にもならないギィという音が、今日はとても鋭く足の裏に刺さるような気がする。
照明がついているにも関わらず、階段の隅や、天井と壁の境がやけに暗く感じる。
階段を上りきって美和子が向かった先は、由衣の思惑通り志保里の部屋だった。
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